2018年7月26日 代官山蔦屋書にて、書籍「YUUGU」の発売記念トークショー「あそんじゃうデザイン」が開催された。「YUUGU」は、プロダクトデザイナー深澤直人氏がジャクエツの遊具をデザインし、これまでに発表されたシリーズ全7作品をおさめた初めての遊具作品集だ。
トークショーでは、深澤直人氏をはじめ、全編の撮影を担当した写真家の藤井保氏、アートディレクションをしたグラフィックデザイナーの佐藤卓氏、そして株式会社ジャクエツ代表取締役の徳本達郎氏が、子どもたちが楽しく遊んでしまう、彫刻のように美しいこの遊具の魅力について語った。
深澤直人×JAKUETS 作品集 YUUGU
深澤直人デザインの遊具ができるまで
佐藤: 徳本さん、そもそも深澤さんに遊具のデザインをお願いすることになったきっかけはなんですか?
徳本: 私自身も、深澤さんの色々な作品を見せていただいていて、デザインが表で主張しないけれども、何となく使っていくことによって愛着が湧くとか、手に取ってしまうだとか、無意識に置いていても何ら違和感もないということで、そういうデザインの素晴らしさというものを感じていました。
佐藤: 当時深澤さんはまだ遊具を作っていませんでしたが、深澤さんだったらという気配があったということでしょうか?
徳本: 実は私も、イサム・ノグチさんのプレイスカルプチュアっていう遊具作品にすごく影響を受けていて、あれを何とか超えるようなものをつくりたいと考えていました。ただイサム・ノグチさんが当時つくられたものは、当社の今の安全基準からすると合わないものもあって、それをジャクエツが販売することもできないし、万一事故が起こっては駄目なので。ジャクエツの安全の基準をクリアしながら、イサム・ノグチ作品を超えるものづくりとなると、深澤さんしかいないのではないかと思っていました。
「YUUGU」のアートディレクションを担当した 佐藤卓氏と、ジャクエツ 徳本達郎氏
佐藤: それで深澤さん、お話がいったわけですけれども、最初どういうお話をされたんですか。
深澤: まず徳本さんご本人が直接やりましょうよっていうお話がきたっていうのは、僕の仕事のスタンスからするとすごく良かった。徳本さんの理解がまずあって、やりましょうっていうことになって、それを難しいからとかこう変更しましょうとか、そういうことなく、とにかく僕が出したら作りましょうって感じなんです。工場で作っているところを確認に行くといつも驚きで、やっぱり自分が作ったものが、こんな大きなサイズのものになるっていうのは、なかなかないじゃないですか。普段は手の中に入るようなものを多くデザインしているし、こんな大きなオブジェクトを出す機会はなかったので。でも、もともと彫刻にも興味があったので、すごく楽しかったです。
実は公園に置いてある遊具とかも、ちょっと許せなかったので。
佐藤: 一般的な公園に置いてある遊具ですか?
深澤: そう、一般的な公園に置いてある遊具という風景を、僕はデザイン的な観点というよりも、生活的な観点からちょっと許せなかったから、そこはやっぱりやらなきゃいけないということもあって。色は子どもらしく派手でなきゃいけないとか、無理やりな感じがちょっとあって。それを変えなきゃいけないという感覚がまずありました。それと同時に徳本さんがおっしゃったように、イサム・ノグチって人にすごく憧れていたし、使っていないときもその中に佇んでないといけないから、そのときの良さが必要だろうなと思いました。
遊びは自分でクリエイトするものだと思うし、それよりも、誰もいなくなったときに、その遊具はその環境に対してちゃんとズレがないかどうかみたいなことも、デザインとしては考えていかなきゃいけない。割とネガティブな印象を持ちながら、変えなきゃいけないっていう、逆にポジティブなエナジーがそこにあったから、こういう仕事を一生懸命やろうと思いました。
佐藤: 最初に作った遊具は?
深澤: OMOCHIという遊具です。つかまってずり落ちてくるような遊びをする子がいて、そういうのを見ていてほほ笑ましくなりました。あと、手がピカピカの表面を吸盤のように支えるような遊具がいいなと。車のツヤよりもっとツヤがないとくっつかないみたいな。FRPのすごく高度な技術なんですけど、その磨き上げたものが粋になるっていうのは、ものづくりに参加する人としては非常に嬉しく感じます。
佐藤: 深澤さんの遊具は、三次曲面がすごくきれいで、平面は“ものすごく平面”じゃないですか。意外と逃げ場がないデザインをしますよね。最初にこの遊具を作ったときは結構大変だったんじゃないですか?
徳本: 型から抜きにくい微妙なカーブであったりとかは、製造上は大変苦労しました。でもF1チームの人とかも、私どものFRPの技術を見ると、やっぱりいいねって言うくらいの仕上げにはなっていて、深澤さんも最初から、そういう姿の線を必ず引いてくれると感じていました。
深澤: 徳本さんとこういうやりとりが始まって、僕もだんだん盛り上がってきたわけですよ。最初はどこまでいけるかなという感じもあったけど、本当にやるんだったらきっとみんなが喜ぶものができるだろうなみたいな、そういうチャンスをくれたことに、本当に感謝しています。
手前から「OMOCHI」と「BANRI」。2018年7月26日(木)から4日間、
代官山蔦谷書店にて「YUUGU」に掲載されている遊具4点が展示された。
佐藤: 藤井さんは、深澤さんのプロダクトを見て、どんな印象を持ちましたか?
藤井: 最初にOMOCHを見たときに、これがミュージアムの真ん中に、ぽんっとオブジェとしてあったらまたすごい見え方が面白いだろうなっていうことを思いました。よく公園にある遊具っていうのは、パンダやキリンの顔をしていたりするけど、このTAWARAっていうのはお米の俵でしょ?でも僕は、これが鳥に見えたりとか、ウサギに見えたりとか、いろんな想像力が湧いてくるんです。子どもが遊んでいないときにも、この遊具は風景をつくりますよね。それを僕は今回撮っていたんだと思います。
佐藤: 深澤さんのプロダクトって、考えたことを一方的に伝えるっていうものではなくて、藤井さんがおっしゃったように、鳥とかウサギに見えるとか、その余地が非常にあるっていう感じがしませんか?藤井さんがいろんなイメージをそこに重ねているように。強制的にこれはキリンとかいうのとは、全然違う入口を持っているんでしょうね。
藤井: 機能を超えて存在する何かっていうのがあるっていうこと。そこからまた何かができていくっていうことがすごいことだと思って。だから僕はそれを見たいと思って自然の中に置いたり、都市の空間に置いたり、環境の中でどう見えるか、何を発するかということをやってみたいと思いました。
手前から「TAWARA」と「HOUSE」。置いてあるだけで、人々が自然と集まってくる。
「あそんじゃうデザイン」に込められた想い
佐藤: 今日のトークショーのタイトルが、「あそんじゃうデザイン」ですが、「あそんじゃう」という、日本には何ともかわいらしい響きの言葉があって、実はこの言葉に結構深い意味がありますよね。
深澤: そうですよね。僕は「あそんでしまうデザインみたいなのがいいかな」と言ったら、「それだったらあそんじゃうっていうほうがいいんじゃないの」って佐藤さんが言ったんですね。
佐藤: 子どもは「あそんでしまう」なんて言わなくて、「あそんじゃう」って言うと思って。これはアフォーダンスっていうなかなか難しい概念なんですが、深澤直人デザインのかなり基本的な部分なので。深澤さん、お話ししてもらってもいいでしょうか。
深澤: つまり「環境が人間に、その状況において提示してくれる」っていうことなんだけど、単純に言うと、歩くっていうことは足を置いた場所がそこに足を置きなさいって提供してくれたこと、それをアフォーダンスっていうんですね。この床は単なる床であって、「ここに足を置きなさい」なんて言ってないわけで、でも人間は無意識のうちに一番正しいところにちゃんと足を置くようになっている。それが自然っていうことなんですね。
佐藤: 我々は日常いろいろ営んでいるのだけども、自分で意識してやりたいと思っていることが全てではない。ほとんど周りの環境が、実は自分を動かしているんですよね。
深澤: そうなんです。ボルダリングとかいい大人が壁を命掛けて登るじゃないですか。あれ、登りたくなっちゃうんですよね。スケートボードもそうだし、難しくて危険のあることを、子どもだけじゃなくて大人もやるんですよ。遊びは大人も子どももあまり質は変わらないと思うんです。それがすごく成長したものがスポーツになったりして言い方を変えているだけであって、興味は大人も子どもも変わらないと思っています。
佐藤: その「あそんじゃう」って、遊具だからあそんじゃうなんだけど、実は全てのデザイン、触っちゃうとか、買っちゃうとか、ついやっぱりやってしまうということって、日常生活では遊具だけじゃなくて、さまざまなシーンでありますよね。
深澤: ありますね。例えば子ども連れでみんな旅行に行ったら、旅館の大広間に行ったりするじゃないですか。そうすると子どもがいきなり突然走ったりしますよね。ああいうのをあそんじゃうっていう。靴下を脱いで、吸い付くような感じなのを子どもは喜ぶじゃないですか。そういう喜びの要素を隠し持たせて遊具をつくろうと思いました。
体は正直ですからね、体は絶対にうそつかない。心はうそをつくので。体に聞けば正しいデザインの答えが絶対出る。間違いないと思うんですね。
佐藤: 本当にそれはすごく大きい。21世紀になって随分たちますけど、これからのデザインっていうのは、そこを忘れたデザインは駄目な気がしますね。
藤井: 僕はデザイナーっていうのは風景をつくる仕事でもあるなと思っています。僕自身は風景をつくることはできないけど、見つめることはできるから、子どもにも大人にも美しくて優しいものを、ぜひつくって欲しいですね。
書籍「YUUGU」が完成するまで
藤井: 僕の直接知り合いではないんだけど、詩人の方がいるんです。
佐藤: 佐々木寿信さん。
藤井: うん。それで今回の作品集に、詩も入れたらどうでしょうという話で、佐々木さんの詩を入れさせていただきました。なんだか、何かをきっかけにして、いろいろなことが展開していきますよね。
佐藤: そうそう、藤井さんとのお仕事は、進めながら気付いたことがどんどん生かせるんですよ。普通だったら最初に目標があったら、その目標を形にしようっていうことに集中していくんだけども、藤井さんの場合は、最初からあまり設計をしないで進めさせていただくので。この本も最初に詩が入るなんていうことは全然予定になかったのが、絵本のようにしてみたらどうか、あれちょっと待てよ、この詩があるじゃないか、こんな素晴らしいのが。そうして読んでみると、深澤さんの遊具と、この自然の環境の景色の中に、すごく合うっていうことが見つかって、実際に入れてみたら、それまでになかった世界へ、またちょっといけた気がした。
深澤: 僕らの世界では「創発」って言うんです。あるものが生まれることによって、また違う細胞と細胞が結び付いて、違うものが生まれるっていう意味の難しい言葉なんですけど。それと同じように、僕は一緒にやろうなんて最初から計画立ててやっているわけじゃないんだけど、何となくこういうふうになるだろうなとか、そういう経路が見えるみたいなことがやっぱりありました。
それでこの「YUUGU」という本には、これまでの集大成が全部つまっています。法隆寺の宝物館で撮っているっていうのも。
藤井: この場所は東京国立博物館の中の、谷口吉生さんの建築で、なんだかすごく縁がありましたよね。
徳本: 建築家の谷口吉生さんは私の好きな建築家で、プロダクト分野では深澤先生が好きで、多分このお二人の作品が合うんじゃないかなって漠然と思っていたところでした。藤井さんが最終的に何となく、撮るならここだろうって言われたんですよね。
深澤: 驚いたのは、子どもの遊具だから、色は黒ってなかなかないんですけど、この撮影ために黒く塗ってくださいと、藤井さんが徳本さんにお願いしていたんです。
佐藤: すごくないですか。商品を黒く塗ってほしいって。
プロダクトデザイナー 深澤直人氏と、写真家 藤井保氏
藤井: 徳本社長が打ち合わせのときに「藤井さん、色はどうにでもなりますから」って言われたんです。それで僕は考えたんです、子どもの遊具にないこのつや消しの黒。つや消しの黒っていうのは光を吸収するじゃないですか。赤とかはみんな発光している。だからその逆の、吸収する光でこのCUBEを覆ったらどうだろうと思った。
でも1枚で全てを説明するアングルを狙ったら、こういう写真にはならないですね。ただのカタログ写真みたいになってしまうので、これは何枚かの写真で黒いCUBEを表現しているんです。いろいろディテールがあったりとか、正面からがあったりとか。ディテールに神が宿るっていう言葉がありますが、きちっと表現されたもの、存在しているものっていうのは、ロングで引いたり、アップで撮っても、何かがやっぱり写るんですよね。それが大事だと思いました。
佐藤: 結果として説明的なアフォーダンスの本ではなくて、アフォーダンスを感じる本になっていたらいいなって思いますよね。
作品集「YUUGU」
著者:ジャクエツ、深澤直人
写真:藤井保、詩:佐々木寿信、アートディレクション:佐藤卓
価格:¥6,000税別 大型本 英語対訳
400×297mm カラー68ページ ISBN978-4-909088-00-0
YUUGUについての詳細は
こちら >
www.jakuetsu.co.jp/yuugu/
書籍の購入は
こちらから >
amazonサイト