深澤直人が考える「こども環境」とは

January 15th, 2016
深澤 直人
プロダクトデザイナー / 多摩美術大学 教授
 深澤直人氏は、ジャクエツとのコラボレーションで、OMOCHI[オモチ]、CUBE[キューブ]、BANRI[バンリ]、DONUT[ドーナツ]、RAFT[ラフト]という5つの遊具(※2017年現在、TAWARA[タワラ]、HOUSE[ハウス]を加えて全7作となった)の開発を行ってきた。「デザインとは、モノと人とのいい関係を築くこと。」深澤氏のその考えから生まれるデザインは、国内外の多くの人に受け入れられ、受賞歴も多数にのぼる。
 デザインのみならず、デザインを通して対象の本質にせまろうとする深澤氏は、より良いこども環境をどのように考えるのか、遊具づくりにかけた想いについて伺った。

 

子どもたちに、存在を意識させない遊具デザイン。


 デザインとは、人とものと環境の関係を指すのではないか。私はそう思っています。デザインが人の意識に刺激を与えるものだと思われているのは事実ですが、人がものを使っている時、あるいはある環境や状況にいる時には、そのものや環境の事を意識していないというのが正しいのではないでしょうか。

 例えば駅の構内を歩いている時に、歩くという行為に対して、人は足の事や靴の事を考えていないし、床の事も意識して考えてはいないのです。

 しかし、あらゆる音や空気が入り混じった混雑する駅の構内で、人は人やものとぶつかることもなく歩いているのです。

 人には、「意識せずにものや環境と自然に調和しようとする機能」が備わっているといってもよいと思います。ものや環境が発する情報を人が受け取っていないという事ではなく、むしろ意識せずにその多層な混在する情報を受け取り、それに対応して身体が自然に動いている。これが正しい理解だと私は思います。存在を意識させないものがデザインだという事も言えると思うのです。

 子どもの行為は遊びに満ちています。身体に触れるもの全てが遊具だといってもいいかもしれません。「身体全体で、ものや場が発信する情報を切れ目なく受け取っている」というのが事実で、それを行為や遊びと定義してもいいと思います。例えば、子どもには遊具という定義を与えずとも、そこにあるものや場と対話する事が遊びとなる。自然に発生する行為に目を向ける必要があると思います。

 こども環境には、子どもが身体で認知する情報を予測して配しておく必要があります。

 危険を排除する事は大切ですが、何が危険で、何が危なくないものかを子どもがわかるような環境の設定も必要です。触れるもの全てが危険を排除した柔らかいものである必要はなく、全てが角の取れたものである必要もないと思います。瞬間、瞬間で学んでいく環境情報と、使いこなして道具として学んでいく情報。これは「慣れ」ともいえますが、すべての環境情報を学び取りながら慣れていく、場やものを与えていく必要があるでしょう。

 

 

子どもの行為が環境に溶けていく。直感に根ざした遊具開発。


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 ジャクエツとは、5つの(※2017年現在は7つ)身体で遊ぶ遊具の開発を共同で行ってきました。これらは「どのように遊ぶか」という事を子どもが考えるより先に、身体がもう、かぶりついているといった、身体が即座に反応してしまうようなかたちをオブジェにしてきました。

 このようなオブジェは、子どもと環境の良好な関係を作る架け橋となるようなものだと思っています。理屈で作るのではなく、あくまでも直感に根ざし、子どもの行為が環境に溶けていくような事を考えて作られています。細いところを歩きたかったり、でこぼこの壁を登りたかったり、手すりのような棒にぶら下がりたくなったりする、身体の欲求に応える要素が盛り込まれた遊具を作ろうとしてきました。これは、ジャクエツが子どもたちに対して、環境情報をさりげなく差し出していく、と言えるのではないでしょうか。子どもが身体全体で受け取る環境情報の中には、秩序や理念までもが封入されていると考えます。自然の一部である子どもの身体が、環境を学びながら溶けていく様は、まさに自然の行為です。ジャクエツは、この自然の摂理に逆らわない遊具や環境を提供していく企業であると思っています。

 

行為のきっかけを見つけ出すことが、創造の源泉。


 「より良いこども環境」とはどういったものか。そう考えたときに、どういうものであるかを定義するのは易しくありませんが、それにはできるだけ単純で、自然の一部である人間の行為に逆らわない環境づくりが必要でしょう。

 環境は生活のための道具でもあります。あまり大人が分析しすぎて生み出したものが多いのは、子どもにとっても良くないと思うんですよね。もっともミニマルなものが、子どもの最大のポテンシャルを引き出す。そんな環境づくりが必要だと思います。それには、生態学的な見地からのものや場づくりが必要になってくるでしょう。

 人間は行為のきっかけを常に探しています。それが創造の源泉だと思います。

 子ども自らがきっかけを探し出せるような環境が大切です。きっかけは環境に封入された道具ともいえます。

 人間は環境の一部であり環境の分子であると考えれば、デザインは分子をデザインする事でもあり、環境全体をデザインする事でもあるのです。

 まずは環境情報とは何かを理解し、環境と人間は等価であるという事を理解し、人間が自ら自然の力を借りて成長していく事への理解を深めることが、ものづくりへと繋がっていくのだと思います。