「これまでの遊具って、遊具すぎたのかもしれません。」 澄川伸一氏が手掛けたメビウスは、遊具への終わりなき問い。 そして、新たな可能性の扉なのかもしれない。

March 22nd, 2016
澄川 伸一
プロダクトデザイナー / 大阪芸術大学 教授
世界を舞台にプロダクトデザインの最先端を切り拓いてきた澄川伸一氏。今回、ジャクエツとのコラボレーションにより、新作遊具「MEBIUSメビウス」を手掛けた。製作プロセスに垣間見えたのは、こだわり続けてきた曲線デザインへの想いと「こども」という対象ならではの発想法が結びついて生まれる、かつてないものづくりのアイデア。メビウスの今後の展開と、遊具の在り方について、メビウスの試作品が完成したタイミングで訊ねた。

 

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場所によって形状も機能も変化するから、あそび方も無限大。
子どもたちが偶発的にあそびを発見していくことの素晴らしさ。


― 今回、新しい遊具の作成にあたって、「メビウスの輪」をモチーフに採用した理由を聞かせてください。

 

メビウスの輪とは、帯状の長方形の片端を180度ひねり、もう一方の端に貼り合わせることで、表側がいつの間にか裏側になるという不思議なループの形状を指します。私は、以前から、このメビウスの輪をデザインに活かしたいという思いを持っていました。これまでに、トロフィーなどのデザインに反映させたことはあったのですが、無限大の可能性を持つ子どもを対象にした遊具にこそこの形状を展開したいと思いました。
先ほど、できあがった現物を確認して、今回のアイデア選択が正しかったと再認識しました。何より初見で手応えを感じたのは、曲面のフォルムです。均一な帯状ではなく、変化にとんだ厚みを持たせた、より有機的なデザインにしたことで、外側と内側の眺める角度によってかたちがどんどん変化していきます。実際に遊んでくれていた子どもたちの目にも、大変興味深く映っていたのではないでしょうか。

 

― 確かに、眺める角度によって形状が異なることは、メビウスに触れた子どもたちに特別な影響を与えていたように感じます。

 

メビウスは、FRP素材を使ったボディの土台にバネを用いた、乗れば〝揺れる〟構造となっています。子どもたちは、揺れる特性と不規則な形状に触発され、それぞれの触れた場所で新しいあそびを発見していました。例えば、一番高い位置にいた子は、座りながら一生懸命にバランスをとっていました。斜めに角度がついている部分では、おしりを乗せて、ツルリと滑るあそびをしていました。縁の出た場所にしっかり足を乗せて、ボディを揺らし続けている子もいましたね。揺れていることで、落ちそうになるスリルを楽しんでいる様子も見受けられました。びっくりしたのは、ボディと地面の間隔が最も大きい場所を下からくぐり、外側と内側の出入り口に使っていた子がいたことです。私は、ボディの高さが低い場所を、上から乗り越えることで出入り口になると捉えていたので、新鮮な発想に驚きを感じました。

 

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― あそび方を設定しないことで、子どもたちが偶発的にあそび方を発見していくデザイン。それがメビウスなのですね。

 

はい。メビウスのキーワードは「謎解き」です。一目見て何をするものか判断できない不可解さを備えることが、あそびの自由度を高めています。例えば、公園に設置してある通常の滑り台。階段があるから登り、目の前に斜めの台があるから滑る。あそび方は一目瞭然でわかりやすいですが、その代わりに自由度が制限されているように感じます。今一度、遊具について考える機会が私たちに訪れているように思いますね。
遊具で遊んでいる子どもを見ていると、子どもの凄さを実感します。彼らは、私たち大人が思いつかないことを自然に思いつくのです。大人が必死に考えた仮説を簡単に飛び越えてしまいます。そうやって生まれる新しいあそびのアイデアは、絶対にロジック(理論)からは作り出せません。だから、大人の考えを子どもに押しつけるのではなく、子どもが偶発的に見つけたアイデアを大人がサポートしていく、という流れのほうが正しいように思うのです。遊具というものが、あそび方を備えて生まれる道具と定義されるとすれば、世界に共通して、従来、遊具は遊具すぎたんじゃないでしょうか。

 

子どもたちに強い興味と関心を抱かせる存在感を。


遊具が子どもに貢献できることは、まだまだ無限にある。

 

─ メビウスの今後の展開について、何か思い描いていることはありますか。

 

まず、ボディの色と置かれる場所(風景)の多様な組合せを試してみたいですね。今回はシルバーを施しましたが、バネを黒色にして、壁も床も天井もまっ黒の空間に置くと、浮いたように見えて面白いはずです。芝生上に設置するのであれば、赤などの派手な色のほうがいいですね。ボディが空間から浮き出るように感じるのではないでしょうか。黄色やゼブラの配色にして森の中に配置すれば、生き物みたいな印象を持たせられるかもしれません。触れてみたい衝動を起こさせたり、乗ってみたい願望を生んだり、色と場所の組合せは、子どもの多様なモチベーションにアプローチする力があると考えています。
また、可能であれば、五感に訴えかけるような仕掛けも演出してみたいです。例えば、中から音楽が聞こえてくるとか、ブルブルと振動するなど、様々な動きがメビウスの独特な形状にマッチされれば、目の当たりにした子どもたちに大きな感動を与えるでしょう。置かれた空間で常に何かのオーラを放つことは、遊具にとって重要な機能だと考えます。

 

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─ 置かれた空間で常にオーラを放つ、とはどういうことでしょうか。

 

道具として使われていないときも、何らかの魅力を放ち続けているということです。例えばフェラーリのデザイン。美しく、ボリュームのある車体がそこに何気なく駐めているだけで、たとえ走っていない状態でも、見る人は高揚感を抱いてしまいます。それとは逆に、存在感を消すデザインもあります。エアコンなどは、部屋の風景に溶け込んだ方がいい場合が多いですよね。私はデザインをする際、置かれた空間において、それらのデザインが「存在感を放つことなのか?」または「存在感を消すべきなのか?」の問いを強く意識しています。そして、遊具とは、置かれた場所で常に存在感を持つべきものに相当すると私は思っています。子どもたちが興味や好奇心を持って注目し、集まり、触れ始める。その最初のスイッチとなるのが、今回のメビウスで言えば「謎解き」であり、置かれた空間で放ち続けられる強烈なオーラだと考えます。

 

─ これからの時代、遊具が子どもたちにできることとは何だと思いますか。

 

大人もそうですが、今、子どもたちの興味や好奇心の大部分がスマホやテレビなどの二次元的画面に向けられてしまっていると思うのです。メビウスに触れることで育まれるような身体を使って遊ぶ楽しさを、遊具はもっと伝えていかないといけない。そのためにはまず「なんだろう?」という喚起力を持たせることが求められます。そして、触れた瞬間にどんどん新しいあそびが誘発される形状が必要になるでしょう。五感を刺激する多様な仕掛けがあったほうが、あそびの幅は広がり、また新たな楽しみへとつながる可能性も生まれます。人間には、子どものときに身体を使って学ばなければいけないことが、きっと膨大にあります。そのために遊具ができることは、それこそ無限大にあるように思います。今後も五感を駆使した遊具の可能性を追求していきたいです。