【対談】「プレイコミュニケーション」シリーズ・デザイン秘話 前編 ~カラーリングに込めた想い~

June 29th, 2018
三澤 遥
デザイナー
「プレイコミュニケーション」シリーズは、子どもたちがあそび、交わり、ドラマを生みながら成長できる総合遊具。日本デザインセンターのデザイナー 三澤 遥さんは、その開発プロジェクトの最終段階からアートディレクションに携わり、色彩を中心にデザイン監修を担当した。また、コピーライターの川原綾子さんをはじめとする同僚とともに、この遊具の可能性をこれまでにない発想で伝えるコンセプトブックも制作した。もの言わぬ遊具を彩り、伝えるためには、どのような工夫や苦労があったのだろうか。このシリーズの総合ディレクターを務めるジャクエツの長沢 秀平さんが、三澤さんと川原さんとともに、その制作の舞台裏を振り返った。

 

 

“シンプルな色”の定義


 

長沢 秀平:今回、三澤さんに「プレイコミュニケーション」のデザインをお願いしたのは、もうプロジェクトが9割がた進行していた頃でした。色に関しても多くの制限があったので、このタイミングで依頼しても引き受けてくださらないんじゃないか?と半分ビクビクしながら(笑)お声掛けしたことを思い出します。こちらからのお願いは、「シンプルなデザインでいきたい」というものでしたが、三澤さんは色についてのシンプルを、そのときどんな風に捉えたのでしょうか。

 

三澤 遥:シンプルというのは向き合うものによっても変わるので、一概には言えない、すごく難しい言葉ですよね。たとえ鮮やかで多様な色を使っていても、シンプルの定義はつくれると思うんです。プレイコミュニケーションでは、赤・緑・黄色・グレーを使っていますが、私はこの4色にシンプルの意味があるとは思っていなくて、例えば、それぞれの素材がもつ色味にずれがあると、全体のキーカラーを殺してしまいます。そのずれをなくして色味を統一することで、キーカラーを簡潔に浮かび上がらせることができます。あるいは緑の明度を少し落として深く落ち着く緑にしたり、赤もマグロの赤身の赤ではなくて、もう少し朱色に近づけることで、黄色との相性を良くして目のチラツキをなくしていく。自分ができるシンプルとは、そういうことかなと思いました。

 

長沢:そのおかげでこの遊具は、他の遊具と比べてどこの景色にも馴染んでいるように感じます。例えば、福岡の展示会でお披露目したときには、福岡タワーの隣で都会的な空間にボンと置かれていたり、こども環境サミットのイベントでは室内の展示場に置かれたり、地面が砂の幼稚園の園庭に置かれたりもしました。ですが、どの場所でもその環境の邪魔をせず、すごく収まりが良いんです。グレーが効いているのかもしれません。これまでの遊具でグレーを入れることは考えたこともなかったので、はじめに三澤さんからこの色を入れたいと聞いたときには衝撃で決心を迷いましたが、実際にプレイコミュニケーションを見ると、グレーを使うことで他の色が生きてくるのが改めてわかりました。

 
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園庭におかれた プレイコミュニケーション-03


 

三澤:すでに支柱の部分がアルマイトのシルバーと決まっていたので、グレーであれば全体の素材感を統一するチャレンジができると思いました。「パーツには全て意味がある」と伺っていたので、まずはそこの三原色から基本に考えていって、動線的な部分の色味を消す設計としてグレーを使いました。いま着ている服もグレーですが(笑)、私自身、グレーから黒にかけてのトーンが好きで、頑張ってくれる色というイメージがあります。黒は周囲が白っぽいと邪魔をしますし、茶は自然界でない環境では目立ってしまいます。でも、グレーはニュートラルで、室内をはじめ、わりとどんな環境でも活きる色です。この遊具を見たときに、何か具体的な形ではなくて抽象度が高いと思いました。子どもがアバウトに想像を膨らませて「見たてられるようにしている」と思いましたし、あそび方も絶対に“こう”というのはなくて、子どもに委ねています。それが良いところだと感じたので、色を決めるときに、カラフルであっても引き算をして色で情報を濁らせることのないよう心がけました。主張するために色を選ぶのではなくて、形をどう活かすかで色を選ぶ。今回は、その部分でご協力できたかなと思っています。

 

 

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日本デザインセンターの三澤 遥さん


 

長沢:他にはない、新しくて良い色になったと思います。制作段階の検証では、踊り場の色が紫外線劣化により1ヶ月ほどで変色すると言われ、慌てたこともありました。つまり設置して1ヶ月後の変色した状態の方が、ずっと長く置かれていくわけです。あのときはすぐに材料を提供してくれている業者さんを呼んで、「どうにかならないのか。いっそのこと変色後の色が合うようにした方が良いんじゃないか」と掛け合いました。他にも、ゴムジョイントや樹脂キャップのグレーの色調合が難しく統一しにくいとか、ロットによって多少違う色味になると言われて、「いやいやそれは困る。それでは特色の意味がないじゃないですか!」と詰め寄ったり。業者さんにしたら、「今までは何も言わなかったのに、なぜ急にそんなに色にこだわり出したのか?」と思ったことでしょう。社内でも「これだけ色にこだわってつくるのが三澤さんの仕事なんです」と伝えています。社員の意識にも、今回、色に対する見方が随分と植え付けられたと思います。

 

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ジャクエツの長沢 秀平さん


 

 

白い遊具はありうるか?


 

長沢:プレイコミュニケーションの色では、三澤さんから当初、白い遊具をご提案いただきましたよね。あれを見たときはすごい衝撃でした。「違う土俵の人に提案してもらうと、こんな面白みがあるんだ」とワクワクしましたし、「チャレンジできたらおもしろいだろうな」と思いました。

 

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三澤さんが提案した白一色のプレイコミュニケーション


 

三澤:そもそも単色の遊具って、あまり見たことないですよね。カラフルにすれば子どもが喜ぶとか、子どもは三原色が好きとかいう固定観念があるんでしょうか。自分はカラフルが好きな子ではなかったので、もっといろんな子がいると思いますし、色ではなくて形や身体的な動きから入る子どももいると思います。形に情報があるのに、なぜ色を足そうとするのかをお聞きしたいです。

 

長沢:おそらく、色を変えることで「止まれ」などの注意喚起をするというのもあると思います。

 

三澤:遊具のデザインには固定概念がかなり入っていると感じます。公園のタコの遊具のように “大きければ存在感が出る“ とか、もしかしたら “売れる色味” というのもあるのかもしれません。ですが、もっと違う方向にポジティブに振れたら、きっと面白いと思います。

 

長沢:最近では、幼稚園や保育園に限らず、より色々な場所で遊具を置いていただけるようになってきました。例えば木目調の空間などに、あの白い遊具があるといいかもなと思ったりします。室内であれば汚れも軽減されるでしょうし。

 

三澤:そうですね。でも、総合遊具の難しいところは、たくさんの素材からできているところで、樹脂にしても何種類もありますし、ゴムや縄、金属など、とにかく素材の種類が多い。白一色で仕切ろうとしても素材によってずれてしまうので、実はかなり難易度が高いんです。でも、だからこそ面白いのですが。

 

長沢:総合遊具をカラフルにするのもそれが理由かもしれませんね。

 

三澤:その点、木の遊具はコントロールしやすそうです。素材も木と金具と縄ぐらいですし、統一感が出しやすくナチュラルな雰囲気にまとまります。樹脂系の素材や金属は、色をつけるのに、原料に混ぜる方法と塗装する方法があるので、色味を合わせるのが本当に大変なんです。

 

長沢:それでも白い遊具をいつかつくれたらいいと思います。川原さんはどう思われますか?

 

川原 綾子:今回のプレイコミュニケーションは、とてもバランスの良いカラーリングになったと思います。ただ、最近、美術館でも園舎でも独自のデザインコンセプトに基づいて建てているところも多いので、この遊具の色は合わないからと、もしも色が理由で選択しない方がいるとしたら本当にもったいないと思うんです。これからこの遊具が、もっと、日本中、世界中の様々な場所に置かれてほしいと考えると、違う色にトライしてみるのはありかなと思います。

 

長沢:いま川原さんがおっしゃられた「多くの人に使ってもらうための色の選択肢」のお話は、今後の展開として、ぜひ考えていきたいことの一つですね。

 

三澤:色に限らず、個人的には、遊具が一つの空間に溶けあうようになると面白いだろうと思います。書棚にかかるはしごやテーブルの脚、柵などのインテリアのエレメント的なものに遊具が同化していって、遊ぶ部分と家具としての部分が混ざっているような。商業空間のなかでも、走っていたらいつの間にか遊具のなかに入っていた、みたいな。そう考えると、日常の道具すら遊具に見えてきて、面白い空間が色々できそうです。

 

長沢:子どもたちが実際にプレイコミュニケーションで遊んでいるところを見ると、踊り場の下の空間で動き回る子どもがいたりします。「ここに遊具があるから、さあ遊びましょう」ではなくて、何かしているその延長で遊具で遊んでいるというのが本当は理想ですよね。昔はそれに代わる環境が当たり前のようにあったのに、今はなくなってしまいましたからね。

 

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>後編【「あそぶだけで」から広がる世界】へ続く