『絵本空間』という言葉を聞いたことがありますか。
絵本は、子どもの成長にたくさんの良い影響をもたらしてくれます。
新たな知識や言葉を得られるだけでなく、絵本に描かれた物語は、子どもの世界をどんどん広げていってくれます。子どもの感性を豊かにし、知的好奇心を引き出してくれる効果が絵本にはあるのです。
そんな絵本を大人が一方的に与えるだけでなく、子ども自身が興味を持ち、読みたい・見たいと思える場所ができないか。絵本の世界に没頭できる場所に、心を落ち着ける場所にできないか。
今回は、そんな絵本を見るための空間『絵本空間』を創出するという新たな挑戦を始めた、絵本作家の刀根里衣さんを取材しました。
刀根さんは1984年に福井県で生まれ、2011年、イタリアの出版社から“Questo posso farlo”(『なんにもできなかったとり』)でイタリアでデビューして以来、ミラノを拠点に創作活動を行っています。2013年には、同原画展において国際イラストレーション賞を受賞。受賞作を絵本化した“El viaje de PIPO”(『ぴっぽのたび』)は、幻想的で繊細な筆致が高く評価され、12か国で読まれています。『なんにもできなかったとり』『モカと幸せのコーヒー』『ぼくのばしょなのに』など、子どもから大人まで幅広い層に愛される作品を多数手がけています。
刀根さんはこの『絵本空間』のプロジェクトで「子どもたちが得意な空想や想像をお手伝いできる、楽しいと思える空間にしたい」との思いを込めたスケッチを書き上げてくれました。
お空の中の絵本空間がテーマで、雲の中で絵本を読んでいるような感覚にひたれるようにと考えたそうです。
ふわふわの雲形クッションに座って本を広げる男の子。虹をイメージした入口からは女の子が部屋をのぞき込む。
心を落ち着ける場所として、押し入れや狭い空間が好きな子どものために用意した雲の形にくりぬかれた「かまくら」では年長児が年下の園児に本を読み聞かせるなど。ここで過ごす子ども達の様子を細やかに思い描いたスケッチです。
インテリアは気球の時計や鳥をモチーフにしたオブジェで、空の上、雲の中という世界に子どもたちを惹き込みます。
刀根さんの優しい世界観が詰まった空間に仕上がっています。
現在、この絵本空間は幼稚園や保育園、こども園などの施設につくることを想定されているそうです。
感染症の流行などで園のイベントが中止になるなど園の中での楽しい空間、思い出が無くなってきてしまっていることから、空間自体を夢のあるものして思い出にしてもらおう。絵本は楽しい、本は楽しい、この場所が好きだ、と思って貰える空間にしようとプレイデザインラボと刀根さんとでこの絵本空間プロジェクトがスタートしたそうです。
刀根さん自身、絵本作家として活動はしていますが子どもに直接的にかかわっているわけではなく、絵本自体も子供向けというより大人も子どもも楽しめる全世代向けの内容のものが多いそうです。中には対象年齢が2歳~100歳となっているものも・・。刀根さんが子どもにしっかりと関わるようになったのは今年3歳になるという自身のお子さんを出産してからだといいます。
子どもが生まれたことで、制作スタイルが変わったわけではなく、「こんな考えがあるのか」「見方があるのか」という着眼点が増えたという刀根さん。今回子どものための絵本空間を作ることになり、改めて子どもが楽しいと思えるものは何か、考えるきっかけとなったそうです。「自分の子どもを見ていく中で、子どもが楽しめる空間を演出することに関われる、というのはとてもいい事だと感じた。今まで絵本の制作しかしてこなかったからアートに対する視点が広がった。」と絵本空間の考案について振り返っていました。
刀根さんはこの空間考案の他にも絵画制作や記念誌制作。そして11月に発刊された絵本「うさぎじかん」では「1ページ完結型で、あせらずゆっくり生きていこうよというメッセージをふわっと伝える内容に仕上げた」と新たな試みをして活動の幅を広げています。